Kamiくんに対して


「ドラムはメロディ楽器だと思ってる」
自分のプレイに目一杯の感情を注いで表現していた彼は
打楽器で喜怒哀楽を語り、それを歌心のようだとよく言っていた。

子供のような豊かな感性のまま、純粋で、たくさんの表情を見せる人。
笑ったり、怒ったり、また笑ったりして、誰の心にもスッと入り込む人懐っこさ。
機嫌の良い時悪い時、穏やかに叩いている時も悲しんでいる時も
一緒にステージで演奏していたメンバーたちにその感情はダイレクトに伝わり
MALICE MIZERの速度も色も、Kamiくんに大きく左右されてきた。

そんなムードメーカーだった存在を、私たちは失った。

1999年6月26日土曜の早朝6時前。
ゆっくり寝ていられる筈だった時間に電話の音で起こされた。
「Kamiが死んじゃったよ…!」
PCを持っている同じ学校のミゼラー友達が、ネットでそんな情報を見つけたと言う。
噂話なんて色々あったけど、デマにしたら酷かった。
なんでそんな話が出てくるの?
死亡は5日前の6月21日、くも膜下出血という聞いたことのない病名を告げられた。

寝起きのぼんやりした頭でとりあえず別のミゼラー友達に電話をかけてみた。
親子でファンをやってる家庭のお母さんが出て
「あぁ、聞いたんだね…」と静かに悲しみをこぼす。
「そんな噂あるんだ、嫌な話だねぇ」って流されると予想してたのに、本当だと思ってるの?
真夜中に知って泣き疲れた娘がようやく眠ったところだったそうで
急に現実味を帯びた事態に「え?え?え?」としか言えなくなっていた。

Gacktが脱退した時もそうだった。
自分の頭では全く想定していなかった展開を突然叩きつけられる。
一瞬にして世界が終わりを告げる。
それが現実だった。

困惑するばかりの私は涙が出なかった。
本当っぽいと察しながらもまだ全然信じることが出来ずにいた。
落ち着かなくてたくさん電話をかけたけれど
その日は1日中、色んな人の泣き声や沈黙を受話器越しに聞いていた。
この時の私には何を失ったのか理解出来なかったけど、皆の心が壊れていくのを感じた。

私が好きなのはMALICE MIZERだった。
構成要因であるメンバーにも勿論好意や憧れや尊敬の想いは抱いていたけど
人として認識する以前に芸術として見ていたところがあったのだと思う。
ぶつかり合った末に良い作品が出来るならそれだけで満足で
音楽に対して妥協しないメンバーたちの本気が誇らしかった私は仲良くあることなど求めもしなかった。

その図式が崩れたのがGackt脱退で
自分の愛する芸術品の欠けた破片をどうやったら修復出来るかという発想を持つように。
亀裂の原因を考え、各メンバーの人間関係に対する考え方に興味が湧いて
とにかくGacktに帰って来て欲しいと強く願っていたこの頃。
Kamiくんの死は私の願いを絶望へと追いやった。
どんなに懇願しても、もうあの5人のMALICE MIZERは存在する術がない。
そう思った瞬間に失ったもの全てが恋しくてたまらなくなり
過去から見動きが取れなくなってしまった。

悲しみを増長させた3期MALICE MIZERの活動。
Kamiくんがいない現実と、Kamiくんの存在感に触れられる喜び
そして遺された人たちの苦しみを噛み締める機会がたくさんあった。
姿の見えないKamiくんに向けて何度も何度も名前を呼んだライヴ。
時には泣き叫ぶような悲鳴として彼を求める声が私の耳に響いた。

でもKamiくんを想うが故にMALICE MIZERを守ろうとしてくれたメンバーの想いが嬉しかった。
あの期間にしていたことは正解なのか間違いなのか分からないけど
ただ必死に生きた。支え合いながら生きた。
そうすることしか出来なかった。

仲良しを主張しなかった筈の彼等に強い結束が生まれ
活動停止後もお誕生日と命日に何かしらコメントを出してくれている。
他にも亡くなった大切な人はいるだろうに、強い執着心でずっと特別に抱擁されているのは
KamiくんがいかにMALICE MIZERを愛していたか
いかにMALICE MIZERでいたかったか、その心を想像するからだと思う。

目を輝かせながら楽しそうに夢を語り、マリスの可能性を信じていた彼。
眉間に皺を寄せて目を細めるキメ顔や、顔の近くで手をかざすキメポーズ。
鼻をスンってする仕草、俯いて恥ずかしそうに微笑む表情。
見てるこっちがちょっと恥ずかしい気すらしたスティックを持って突然立ち上がっちゃう姿も
容赦なくGacktさんを攻撃した怒りの言葉でさえも
生命力に溢れるKamiくんの記憶が今は全て愛しい。

バラバラになったメンバーたちや各ファンの接点にはいつもKamiくんがいて
その死を悲しむ反面で、私は希望も感じている。
Kamiくんを掛け橋として繋がるMALICE MIZER。
もし今も生きていたら、MALICE MIZERはまだ活動してたかな。
もしあと数ヶ月でも長く生きてたら、Gacktさんと仲直り出来たかな。
不仲を解消したことを私たちファンがKamiくんの口から聞くことが出来てたりしたかな。

何をしてもKamiくんは帰って来ないけど、絶対に私の心から消したりしない。
Kamiくんが見たら何て言うだろう、Kamiくんだったらどう感じるだろう
そんな発想を常に頭の片隅に置いて一緒に時の流れを見守るんだ。
生前に個人認識されたこともなければ霊感もない一方的な想いだけど
カミスミゼラーは今もここにいるよって叫んでこの声を届けたい。

MALICE MIZERに身も心も捧げた、永遠の血族へ。
変わらぬ愛と忠誠を。


2015年08月14日

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